2020 SUMMER/AUTUMN

青井 茂株式会社アトム 代表取締役

ユーモアのセンスとは、変化を受け止める力。混沌の時代をユーモアで泳ぎ切りたい。

ニュートンが「創造的休暇」なら、
僕は「空想的・妄想的期間」

ニュートンが万有引力の法則を発見したのは、17世紀、ヨーロッパの各地でペストが大流行していた時期だった。通っていたケンブリッジ大学が休校になり、ペストを避けて1655年から1年半、ウールスソープに帰郷。そこで、りんごが落ちるのを見て万有引力の法則を思いついた。これだけでなく、彼の三大業績はすべて同じ時期になされたと言う。そのため故郷に戻っていたこの期間は「ニュートンの創造的休暇」と呼ばれている。

現在、世界中で新型コロナウィルスが大流行している。日本でも多くの店が休業を余儀なくされ、人々は先の見えない未来を不安視している。僕はニュートンと違って休暇ではないため、ウェブを通じて会議をしたり、仕事をしたり本を読んだり、それからいろいろ空想したりして過ごしている。ペストが流行していた時代、ニュートンが「創造的休暇」を送っていたなら、僕はまさに「空想的・妄想的期間」を過ごしている。

新型コロナの感染拡大は、世界が大きく変わるきっかけになることは間違いない。そんな様子を目の当たりにしながら、僕はこれからの未来に向けて空想している。僕自身、新型コロナが日本で騒がれ始めた頃には、正直なところ、過去を後悔したり、不安になったりすることもあった。しかし冷静に考えると、「もう元の世界に戻ることなどないのだから、今できることをやらなければ」と、徐々に気持ちが上向いてきた。メディアではアフターコロナやウィズコロナなど、まるで言葉遊びのように騒がれているが、僕は毎日変わらず5時半に起きてジョギングをし、食事して本を読み、音楽を聞いて仕事をしている。限られた中で、淡々と日常を繰り返している。しかし、ただ同じことをするのではなく、毎日ジョギングコースは変えているし、読む本も10冊くらい同時進行だ。常に変化が加わり、刺激がある。ひとりで過ごしている時や移動中には、ときどき落語も聞いている。僕は落語が好きで、特に一之輔はお気に入りだ。なぜ落語というものは何度同じ話を聞いても笑ってしまうのだろう。噺家は絶妙に間を読み、その場の雰囲気を的確に捉えて、ライブ感のある落語を披露する。その間の掴み方が絶妙で、聞き手はくるぞくるぞと思いながらも笑うことをやめられない。人間はおそらく誰でも「笑わされたい」という欲求を持っていて、だからこそ、面白い人やユーモアのある人のところに人は集まってくるのだ。まるで引力にひきつけられるように。

世の中には「笑わせる人」と「笑わされる人」の2種類がいて、「笑わされる人」の側に立つ人はよく「自分にはユーモアのセンスがないから」と口にする。だが、僕はそんなことはないと思っている。ユーモアのセンスは誰もが持っているものであり、「自分にはユーモアのセンスがない」という人は、周囲に面白い人が多すぎて自分のユーモアに気づいていないだけか、あるいは、極端に良い人すぎて人の話を笑うだけか、どちらかだと思う。もし、ユーモアのセンスがないと思っているなら、まずは、常にニコニコと笑顔でいることだ。そしてときどきふと黙り込み、自分の失敗や不運をネタにして話す。人間は他人の幸せな話が好きだが、失敗や不運の話はもっと好きだ。ちょっと面白く脚色すれば、それだけで「ユーモアのある人」と認定される。

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